モニエル瓦と聞いても何のことやらピンとこない方も多いかも知れません。
しかし塗装工事のなかでも不具合の発生が驚くほど多い素材の一つがモニエル瓦です。
この記事ではモニエル瓦(セメント瓦)の特性と塗装方法について解説いていきます。
モニエル瓦(セメント瓦)とは?
和瓦
瓦と聞くとこのようなものを想像されるかも知れませんが、これは和瓦(粘土瓦)といって基本的に塗装の必要はありません。
和瓦には表面に釉薬が塗られているタイプの釉薬瓦と、釉薬をかけずに窯で焼き、表面に炭素膜を形成させる無釉瓦の二種類があります。
どちらの種類の瓦も耐久性が高く、瓦自体の寿命は50年以上とも言われています。
日本の建造物には1000年以上前に作られた瓦が現代でも使用されている例もあるくらいです。
しかし屋根の工事が必要で無くなるわけではありません。
二次防水と呼ばれる、瓦の下の防水シート(ルーフィング)の耐用年数は20年前後である場合が多く、定期的な張り直しが必要とされます。
その他、漆喰の詰め直しや棟瓦の積みなおしといった補修が必要になってきます。
劣化したルーフィング・野地板また、瓦屋根のデメリットである重さを懸念し、金属屋根に張り替えるケースも最近は多くなっています。
モニエル瓦
塗装工事を必要とするのは、セメントやコンクリートで出来た瓦で、モニエル瓦はそれらにあたります。
セメントと砂を混ぜ合わせて形成し塗装処理がなされる訳ですが、モニエル瓦の塗装には着色スラリーと呼ばれるセメント系の着色剤が使用され、最終的にアクリル樹脂のクリヤー塗装で仕上がりとなり出荷されます。
モニエル瓦自体は雨水が染み込みやすい性質であるため瓦表面を塗装処理することによって防水機能を有しています。
もちろん塗膜は劣化していきますので、屋根材としての機能を保たせるために定期的な塗装工事が必要となります。
モニエル瓦以外のコンクリート・セメント瓦も然りです。
モニエル瓦の塗装で絶対に気を付けたいこと
モニエル瓦塗装には塗膜の剥がれに要注意です。
正しい処理を怠ると一年もしないうちにベリベリと広範囲にわたって剥離が起きる事も珍しくありません。
剥がれが起きてしまう原因の1つにスラリー層が挙げられます。
このスラリー層は劣化すると、粉状のとても脆弱な層となり、素地と塗料の密着を阻害します。
粉をふいた表面に塗装したところで素地とは密着していませんので塗膜が剥がれてしまうというわけです。
また、溶剤系のシーラーにも弱いという性質も併せ持っており、対処法に悩まされる業者も少なくありません。
スラリー層の除去が不完全だったため塗膜が全く密着していない様子。
もう一つの原因としては瓦の乾燥不足です。
塗装前の下地処理として水を使った高圧洗浄を行うのですが、その時に瓦が大量に水を吸ってしまいます。
十分に乾燥をさせずに塗膜で蓋をしてしまうと、気化しようとする水分が行き場をなくし、塗膜を押し上げてしまいます。
天候、季節にもよりますが2日間くらいは養生期間を設けた方が良いでしょう。
翌日に塗り始めるなんていうのはもってのほかです。
スラリー層の対処法
上記でも述べたように、主な密着不良などの不具合の原因となるものがこのスラリー(層)です。
施工不良を回避するために重要なことは、入念な高圧洗浄と適切な塗料選びです。
劣化が進んだモニエル瓦に高圧洗浄を施すと、既存塗膜を綺麗に剥離する事ができ、素地が剥き出しになります。
その様な状態の場合では、カチオン系の屋根用フィラーを下塗りに選択する事で肉厚な塗膜を再現する事ができます。(活膜が全体のおよそ20%未満)
既存のスラリー層が強固で洗浄で剥がしきれなかった場合には、瓦に浸透し脆弱なスラリー層を固める性質を持った専用のシーラーを下塗りに使用します。
ここで注意が必要なのは、水性の塗料を使用することが好ましいという事です。
脆弱なスラリー層は溶剤(シンナー)に弱いという性質も併せ持っています。
そこに水性以外の塗料を塗布した場合には、更にスラリー層を破壊し密着不足の原因となってしまいます。
モニエル瓦の塗装時期って?
新築時からはおよそ10年程度で塗装するのが理想的です。
出荷時の塗膜が保護機能を失い、素地の劣化が進み始めるのがこの時期だからというのもありますが、私が早め早めの塗り替えをオススメするのには訳があります。
その理由としては、モニエル瓦の入手が困難だという事です。
通常の屋根材であれば一部交換・差し替えといった補修が可能ですが、モニエル瓦は現在廃版となっており、製造されていないのです。
至る所が割れた、砕けたとなってからでは対応が難しくなってしまいます。
しかし、築年数でどのお家も同じように劣化していく訳ではないので、私は劣化状況からの検討をオススメしています。
ではどのような症状で塗り替えが必要なのか?
症状の重症度を踏まえながら確認していきましょう。
症状 | 重症度 | 詳細 |
---|---|---|
変色・退色 | ★ | 初期の経年劣化です。常時紫外線にさらされてる屋根部分では比較的早くこの症状が現れ始めますが、この段階では急を要することはありません。 |
汚れ | ★ | 雨で流されていくこととはいえ、大気の汚れや砂埃は蓄積していってしまいます。劣化の原因にもなり得ますが、急いで塗り替えをする必要はありません。 |
チョーキング | ★★ | 塗料の持つ保護機能が失われている証拠。 素地を守るという塗膜の役割を終え、塗料が粉状になり雨や風に流されている状態です。 |
藻・カビ・コケ | ★★ | コーティングの機能を失い、生物が繁殖出来るようになった状態。 内部からの劣化の原因にもなるため、塗り替えの検討をする時期。 |
ヒビ割れ | ★~★★★★ | 雨や太陽熱により、劣化がすすみ内部が脆くなってしまっている。 塗り替えは基より、劣化した瓦の欠落防止処置を検討する必要があるかもしれません。 |
膨れ | ★★★ | 内部の水分が熱せられ、気化しようとしたときに塗膜を押し上げて起こる現象。 防水機能を失ったため、雨水が浸透している状態。 |
剥がれ | ★★★★ | 上記の症状が進み塗膜の剥離が起きてしまった状態。 モニエル瓦の耐久性を維持したいのであれば、早急な塗装処理が必要。 |
その名の通りひび割れたモニエル瓦の破片が屋根から落ちてくることを指し、落下物と雨漏りの二つの危険にさらされている状態です。
そのような場合には、最低限の応急措置だとしても補修作業を迅速に行う必要があります。
外壁塗装にこの時期・季節は絶対にダメ!そんなタイミングってあるの?
モニエル瓦を塗装するときの費用は?
モニエル瓦では一般的なスレート屋根に比べ、単価が高くなる傾向にあります。
下地処理や塗装における手間や、材料の選択の経験などスレート屋根に比べ、少々難易度が高くなるためです。
およそスレート屋根の1.3倍ほどと考えておけば問題ないかとは思いますが、モニエル瓦だからと相場から大きく外れた見積りを提示してくる業者には周囲が必要です。
屋根面積は建物ごとに大きく変わってしまいますが、参考までに坪数ごとの費用相場を表で見ていきましょう。
坪数(延坪) | 塗装面積 | 費用相場 |
---|---|---|
20坪 | 35㎡ | 約15~25万円 |
30坪 | 55㎡ | 約25~40万円 |
40坪 | 75㎡ | 約40~70万円 |
50坪 | 95㎡ | 約70~100万円 |
60坪 | 115㎡ | 約100~130万円 |
70坪 | 140㎡ | 約130~160万円 |
100坪 | 180㎡ | 約180~220万円 |
上記の金額に15万円~40万円ほどの足場代がかかりますので、外壁の塗装と同じタイミングで行うのが良いでしょう。
モニエル瓦の塗装手順
1.洗浄
高圧洗浄をトルネードノズルで行う。
この時、一般的な屋根に比べて飛散が多いため、ブルーシートなどで囲い十分な注意を払う。
2.下地処理
ヒビや欠け等をコーキング・カチオンペースト等で補修する。
その他削り落としたい塗膜がある場合は、三種ケレンにて除去する。
3.下塗りを塗布する
スラリー層を丁寧に除去した後、専用のシーラー及びフィラーを塗布する。
残活膜率が高い場合にはシーラー塗布後のフィラー塗布が好ましい。
4.上塗りを塗布する
透湿性に優れた塗料を二度塗布する。
この時少しでも塗膜の密着不良を感じた場合は、その部分をケレンし、シーラーから再施工する。
まとめ
この様にモニエル瓦の塗装には、スラリー層や水分含有量など様々な注意点が存在します。
素材自体はコンクリートなので密着性は悪くないのですが、正しい方法で施工しなかった場合には不具合が顕著に現れる材質であります。
他部分の作業でもそうですが、失敗のない工事にするためには職人の技術はもちろん、きちんとした専門的な知識を持っているかも重要になってきます。